インタビュー:Snow Peak 山井太社長
Interview
2019年7月にオープンいたしましたSnow Peak FIELD SUITE HAKUBA KITAONE KOGENは、今年7年目を迎えます。株式会社スノーピークの山井太(やまい・とおる)社長があたためていたコンセプトと北尾根高原の絶景との出会いからスタートしたFIELD SUITEについて、あらためて山井社長にお伺いしました。
色々ご本を読ませていただきましたが、これだけキャンプされた方はいないのではないかと。いつからキャンプを?
うちの子たちは生後半年くらいでキャンプに行っていましたが、僕はデビューが遅くて3歳くらいでした。父親がロッククライマーだったので、僕も本当はちっちゃいころから岩登りに行きたかったのですが、父親に「お前のような性格では向いていない」と言われて岩登りを禁止されました。そのかわりにという形でキャンプが始まりました。サバイバルな技術が身についたりとか、そういう意味では良かったのでしょうが、道具が扱いづらいものだったりカビくさいものだったりを使っていたので、快適で楽しいかっていうとそんなことはなく、当時のキャンプというもの自体があまり好きではありませんでした。それでも、なぜキャンプが好きになったかというと、「大人になったら、おしゃれで快適なキャンプ道具を自分で作ろう」という思いがあり、いつか仕事にしたいという気持ちがあったからだと思います。
スノーピークのコンセプト「人生に、野遊びを。」についてお話いただけますでしょうか?
「人生に、野遊びを。」というのは、スノーピークのコーポレートメッセージです。キャンプやグランピングといった言葉ではなくて、「野遊び」と日本語を使っているところがポイントです。スノーピークは今グローバルに事業を展開していますが、海外に出た時に、自分たちの強みのひとつがやはり日本文化。花鳥風月という、自然のうつろいなどを生活に取り入れながら文化にしてきた、日本人の自然に対する情緒感というものがベースにあります。スノーピークの製品はよく、「美しい」とか「シンプルな美しさがある」などと言っていただきますが、それはベースにこの日本の文化があるからだなと思っています。「野遊び」という言葉は、キャンプやグランピングという概念を超えて、非常に大事な言葉だと思っています。そして、自然の中での「野遊び」を通して、自然と人、人と人がつながる豊かな生き方につなげていくことができたらと思っています。
最初に白馬・北尾根高原に降り立った時の最初の印象をお聞かせください。
初めて北尾根高原を訪れたのは、非常に天候の良い10月の20日頃でした。北尾根のリフトに乗る前は、「僕は世界中の自然を見ているので、ちょっとやそっとじゃ、あんまり感動しませんよ」と言っていたのですが、北尾根に降り立った時に、紅葉している白馬三山が目の前にガーンと見えて、思わず「うわー!」という声が出ました。「フィールドスイート」の構想は、絶景な場所に作りたいという思いがあり、「ここだ」と思う場所が見つかった時にそれを始めようと考えていました。何箇所か候補地をまわっていたのですが、北尾根に降り立った時に、「フィールドスイートはまさしくここでやるべきだな」と確信しました。それで、八方尾根開発の当時の倉田社長と、「一緒にやりましょう!」という感じで、大変盛り上がったのを覚えています。
「フィールドスイート」はどのような施設にしたいとお考えになったのですか?
そうですね。一流ホテルのスイートルームに負けない、フィールドすなわち自然の中にあるスイートルームというコンセプトです。もちろん、一流ホテルとはカテゴリーが違うので、表現の仕方とか性質は違うかと思いますが、訪れる方が今まで経験したことの無いレベルの感動ができるような体験価値を作る。その舞台として北尾根高原は申し分ないなと思います。
「グランピング」の定義をどのようにお考えでしょうか?
グランピングの一般的な定義・イメージは、簡単にいうとグラマラスなキャンピングということだと思うのですけど、グランピングという言葉は結構安売りされてしまっているように感じます。「フィールドスイート」構想時からそうだったのですが、誰かが本物のグランピングをやらないと、レンタルオートキャンプみたいな、お料理がバーベキューみたいな施設ばっかりになってしまうと思っていました。本物のグランピングは、「体験価値」という点が大きく違います。それはちゃんと自然の中にあり、時間の過ごし方であり、訪れた方の人生を変えるくらいの体験価値です。その土地の自然とか食材とか文化とか、いくばくかの凝縮されたものが共鳴しあって、ひとつのメディアのようになって新しい価値を生み、感動的な体験というものに昇華する。その意味で、FIELD SUITE HAKUBA KITAONE KOGENは、僕が思っているグランピングのイメージに一番近い。そのような新しい価値が作られている、日本で一番の施設ではないかと思っています。たぶんグローバルでグランピングという言葉を使っていい、数少ない施設のひとつですね。
スノーピークのある新潟とFIELD SUITE HAKUBAがある長野というのは、大変肥沃な土地で、最近はテロワールというような言葉も出てまいりました。この豊かな土地における「地方創生」の文脈でお考えをお聞かせください
スノーピークでは、「ローカル」という言葉を大事にしています。うちの施設があって、うちの社員がいるところは、海外も含めてぜんぶスノーピークのローカルだと。そこには、そこにしかない自然、食材、文化、人があります。そのローカルにしかない価値というものをあげていくという意味では、グランピングは最適な手段だと思います。そういうフラッグシップのひとつが、FIELD SUITE HAKUBA KITAONE KOGENだと思いますので、周辺のプレイヤーの方々とともに白馬の総力を上げて、良い体験価値をつくりあげ、もっと突き抜けていってください。
山井太(やまい・とおる)/株式会社スノーピーク 代表取締役社長執行役員
1959年新潟県三条市生まれ。明治大学卒業後、外資系商社勤務を経て1986年にスノーピークの前身であるヤマコウへ入社。アウトドア用品の開発に着手し、オートキャンプのブランドを築く。1996年に社長へ就任し、スノーピークへ社名を変更する。これまでにキャンプは2,000泊以上。